東海再処理施設の廃止措置の現状と今後の問題点

2020/10/07

原子力 東海再処理

 東海再処理施設の廃止は、70年の期間と1兆円の費用がかかる

東海村にある核燃料サイクル工学研究所内の東海再処理施設は、新規制基準に適合させることが難しいため、廃止するとのことです。

 しかし、これは「今後、新たに使用済み燃料の再処理は行わない」という意味です。今後は廃止が完全に終わるまで、「廃止措置中の再処理施設」として、必要な安全対策を確実に実施しなければなりません。原子炉等規制法の新しい基準を満たしたうえで、施設の解体・撤去を進めながら、大量の放射性廃棄物を安全に管理しなければなりません。 

この東海再処理施設は、2018年から廃止措置を始めています。 事業者は廃止が全て完了までに約70年かかるとしていますが、トラブルが続いて現在も中断している高レベル放射性廃液のガラス固化の状況などを考えると、実際にはもっと長い年月が掛かると思われます。また、事業者は廃止に伴って約1兆円の費用が掛かるとしていますが、これも現時点のおおまかな概算であり、今後どこまで増えるかは不明です。

東海再処理施設の廃止措置の概要(出典:東海再処理施設の廃止措置(平成301221日).pdf)

 老朽化した再処理施設や原子力発電所を廃止する費用や、福島第一原発の事故処理の費用などは、最終的には電力料金か税の形ですべて国民が負担します。事業者でも政治家でもありません。この事故では、今後、100兆円近い費用が掛かるとの試算もあるようです。また、ガラス固化体などの最終処分費用は、全く見通せません。これらの費用を原子力の発電単価に反映させれば、原子力が一番安いとはとても思えません。私の素朴な疑問です。しかも、原子力発電は二酸化炭素を排出しないだけで、非常に危険な放射性廃棄物を発生しますので、何らクリーンなエネルギーではありません。


 高レベル放射性廃液は、今後も液体のままタンクに保管される

再処理によって発生する高レベル放射性廃液は、使用済み核燃料に含まれる放射能のほぼ全量を濃縮した硝酸性の水溶液で、取扱いが難しく、極めて危険な廃液です。

日本では、溶けたガラスと混合してガラス固化体にした上で、地下300mよりも深い地下に埋めることによって、人が生活する環境から隔離すると法律で定めていますが、具体的な見通しはありません。

 現在、東海再処理施設では、この高レベル放射性廃液が約360立方メートル液体のままで6個の大きなステンレス製タンクに分けて、保管施設(HAW)に保管されています。

今後はさらに、再処理工程の中に溜まっている残液などを取り出す必要があり、相当の期間にわたって廃液を濃縮する設備などを維持し、運転しなければなりません。

 ちなみに英国のセラフィールドでは、タンク内の冷却水配管などの破損が増加し、廃液が漏れる事故やテロリズムによる施設の破壊などに対する懸念から、高レベル放射性廃液をタンクで保管する量は、200立方メートル以内に制限しています。


 液体で保管している「高レベル放射性廃液」は、重大な危険性がある

高レベル放射性廃液は、中性子線、ガンマ線、アルファ線、ベータ線などの放射線を強力に放出するため、人が接近することはできません。

これらの放射線によって水が分解されて水素ガスを発生するため、常に空気を送り込んで水素を薄めています。この希釈空気が止まれば、水素爆発を起こす危険性があります。

また、放射線によって発熱するため、常に水で冷却しなければなりません。何かの原因で冷却水が止まれば、廃液は沸騰して蒸発・乾固し、さらに溶岩が固まったようなカラメル状に変化しますが、この過程で大量の放射性物質が空気中に蒸発します。

さらに、地震や津波などによってタンクや配管が破損すれば、この廃液がタンク外へ漏えいする危険性があります。


 こうした重大な事故が起これば、大量の放射性物質が環境中(大気、地中、海洋)へ放出されれば、この地域へ人は立ち入ることができず、約2.8km北側にある東海第二原子力発電所の運転や維持管理ができなくなる可能性もあります。

現状では、事業者による重大な事故の想定内容は十分とは思えません。また、緊急時には、作業者が簡易な移動式の設備を設置・操作し、事態の状況に応じて対処するとしていますが、確実に機能するかどうかは確認できません。事故は想定を外れて起こるため、様々な事故事象に対して確実に対処できるかどうか、大きな不安があります。


高レベル放射性廃液をガラスで固化するのは、容易ではない

ガラス固化施設(TVF)において、高レベル放射性廃液をガラスで固化する作業は、廃液と溶融したガラスを混合する溶融炉のトラブルなどのため、現在も中断しています 。事業者は、今後、2028年までに約564本のガラス固化体を製造するとしていますが、過去の実績を考えると、もっと長い年月が掛かるのではないかと思われます。

過去に作製した316本の固化体は、空気で冷却しながら施設内に保管しています。東海再処理施設内には、これ以外にも非常に放射能の強い燃料棒のせん断片などが、大量に保管されています。これらを最終処分する目途は立っていませんので、今後とも長期にわたってそのまま保管されます。


 ちなみに、ガラス固化技術の開発は40年ほど前から進められていますが、当初から溶融炉の底に重い白金族成分が沈殿し、溶融炉内に直接流す加熱用の電流が底に偏って流れ、炉を均一に加熱できないという問題がありました。この基本的な問題は、現在のTVF施設でも解決できていません。溶融炉のサイズをずっと大きくした六ケ所再処理工場では、さらに難しい問題になっています。フランスでは、溶融炉内に直接通電せず、外側から高周波で加熱するAVM方式で、ガラス固化を行っています。


 今後、この固化作業が無事に終了したとしても、製造した約880本のガラス固化体は、最終処分地へ運び出す見込みがありませんので、その他のたくさんの放射性廃棄物とともに、そのまま半永久的?に敷地内で保管することになると思われます。

一方、東海第二原子力発電所では、既に使用済み核燃料プールが満杯になっているため、新たにキャスク容器に入れて保管しています。六ケ所再処理工場などで受け入れる余裕がないため、現在、さらに保管量を増やす増設工事を進めており、東海第二を運転すれば、敷地内に使用済み燃料が増える一方です。


廃止措置中であっても、新しい基準に適合する安全対策が必要である

HAW施設は基準地震によって建物が転倒するリスクがあるため、HAW施設とTVF施設の間の地面の土を厚さ約4mのコンクリートで置き換える工事を20年8月から開始しました。

また、東海再処理施設では津波に対する防潮堤は設置しないとのことで、HAW施設やTVF施設内への津波が浸水しないように扉をコンクリートで補強する工事や、津波の漂流物が建屋に衝突しないように防護柵を設置する計画です。ただし、漂流船としては、総トン数が約19トンの小型船までしか想定していません。この想定は、ひたちなか港にたくさんの大型定期船などが頻繁に航行している現状から考えると、とても妥当とは思えません。


核燃料サイクル工学研究所には、多量のプルトニウムが保管されている

 これら以外にも、核燃料サイクル工学研究所には、再処理によって分離したプルトニウムが約4トン保管されており、所外へ搬出する見込みはありません。万一、臨界事故が発生すれば、その影響は計り知れません。

1912月末現在、https://www.jaea.go.jp/database/pu/


 まとめ

東海再処理施設や東海第二原子力発電所の問題は、東海村に住む村民のみなさんだけで決定できる問題ではありません。また、わずか5km圏内の地域だけで完結するものでもありません。万一の事故の影響が及ぶ範囲を考えれば、30km圏内はもとより、少なくとも茨城県全体の問題です。

茨城県に住む市町村民が、安心して平穏な普通の日常を過ごすことができるように、茨城県に住む一人ひとりの力で、自分達の未来を変えなければなりません。


老朽化した東海第二原子力発電所を廃止するとともに、東海再処理施設は必要な安全対策が確実に実施され、より一層厳重に維持管理されなければなりません。

 このブログでは、東海第二原子力発電所と東海再処理施設について、技術的な内容も含めて、公開資料をもとに事業者とは異なる市民の視点から、問題点や疑問などを具体的に発信し、多くの市民の皆さんと一緒に考えたいと思います。質問や疑問、事実誤認のご指摘、或いはご意見などを是非送っていただきたいと思います。