東海第二原子力発電所の安全対策に関する問題点や疑問点

2020/10/08

原子力 東海第二原発

安全対策に関する茨城県固有の問題点

 東海第二原子力発電所は人口密集地に立地しており、既に老朽化していること、また、近隣には、極めて放射能の強い「高レベル放射性廃液を大量に保管する東海再処理施設があるため、どちらで事故が起こっても近隣の市民が放射線を被ばくし、環境が放射能で汚染されるおそれがあります。


 しかし、こうした茨城県に固有の問題は、新しい安全基準による国の安全審査では全く考慮されておらず、大変疑問です。現在事業者は東海第二の運転延長を目指して、それに必要な安全対策工事を進めています。この工事は立地自治体である東海村及び茨城県が了解したものであるとのことですが、県による安全検証が続いており、その結果次第によっては、今後、必要な安全対策の内容が大きく変わる可能性があることを考えると、事業者は工事を進めるべきではないと思われます。それとも、この検証にそのような重要な意味はないと考えているのでしょうか。

 

事故時における放射性物質の放出想定

 事業者は、東海第二で重大な事故が発生した場合、7日間でセシウム137に換算して最大約18テラベクレル(TBq)の放射性物質が放出されると評価しています。しかし、ここで事業者が想定した事故の継続時間、施設外へ放出される放射性物質の種類、量、濃度(放射性プルームを含む)などの内容や、最終的に一般市民がどのくらい放射線で被ばくすると評価しているのか、全く不明です。

 広域避難計画の作成とも直接係わるため、詳細な内容を公開するべきです。

 

東海第二発電所と再処理施設の同時被災の可能性

 東海第二は東海再処理施設から2.8kmしか離れていません。大きな地震や津波などで、両者が同時に被災する可能性が十分にあります。その場合、それぞれの施設から放出される放射性物質によって、互いに重大な影響を受けるおそれがあります。

 現在、東海再処理施設では、使用済み燃料の再処理によって発生した約360立方メートル高レベル放射性廃液タンクで保管しています。この廃液は、常に冷却しなければ発熱によって沸騰し、蒸発乾固し、大量の放射性物質を大気中に放出するおそれがあります。また、万一、タンクが破損すれば、廃液が施設内外へ流出します。さらに、常にタンク上部に空気を送り込んで希釈しないと、発生した水素ガスが爆発し、廃液の漏えいや放射性物質を大気放出する可能性があります。

 こうして放射性物質が大気中に放出され、或いは、高レベル廃液が施設外へ流出すれば、広い地域が汚染されます。茨城県による安全検証では、東海第二原子力発電所と東海再処理施設が同時に被災した場合について、相互にどのような影響を与えるか、踏み込んで検証する必要があると思います。

 

中性子照射等による炉内構造物の劣化予測(施設設備の老朽化)

 原子炉内の材料が、中性子照射による劣化状況を確認するため、圧力容器内に設置している材料試験片は、定期的に取り出して監視試験を実施していますが、運転開始当初から入れてある試験片は1点しか残っていません。今後、事業者は新しい試験片を入れるとしていますが、これまでの原子炉の運転によって材料が受けた中性子の照射履歴を、どのように評価できるのか疑問です。

 

炉内構造物が予期せずに破損する可能性(施設設備の老朽化)

 原子炉内の構造物は、強力な中性子照射によって脆くなり、スエリングが発生し、応力腐食割れや疲労割れ等の損傷が発生します。日本原電の敦賀1号炉や東電の福島第一発電所の1~3号炉などでは、既に、原子炉の炉心を支えている大型構造物(シュラウド)が中性子照射によってひび割れが発生したため、新しいものに交換する大掛かりな工事を既に実施しました。東海第二の原子炉でも、大きな異常が発生しないか心配です。

 

テレビカメラを使った炉内検査の限界(施設設備の老朽化)

 原子炉内の構造物の劣化状況を確認するため、水中TVカメラと照明を使って検査するとのことですが、遠隔操作で確認できるところは、ほんの一部しかありません。現実には、構造が複雑であり、障害物や場所が狭い等の制約から、確認できない部分がほとんどです。また、カメラ画像の解像度では、識別できる傷などの大きさに限界があります。もちろん、表面だけしか見えませんので、傷の深さ等は分かりません

 こうした確認できない部分は、どのように判断するのか、不明です。

 

炉心シュラウド等の応力腐食割れの推定(施設設備の老朽化)

 事業者は、今後、炉心シュラウドと上部格子板に応力腐食割れが発生すると推定しています。どのような根拠で、いつごろ発生すると推定しているか、また、それが問題にならない理由が不明です。

 

電気ケーブルの劣化評価の信頼性(供試体の選定)(既設ケーブルの劣化)

 新しい安全規制基準では、全ての電気ケーブルは、基本的に難燃性のケーブルでなければならないとしています。東海第二では、古い難燃性ではない電気ケーブルが、安全系の設備に接続しているもの(総延長で約200km程度)であっても、今後もそのまま使うことを認めたとのことです。

 これらのケーブルは、動力供給や計測制御等を左右する重要な機能を果たしているものですが、置かれた環境に応じて、放射線や様々な外力、振動、熱、湿度等によって、ケーブルの被覆材の強度や絶縁性能が確実に低下しています。事業者はケーブルの劣化を評価するに当たって、新品のケーブルを使って試験を行い、今後さらに20年間使っても問題はないとしています。

 しかし、新品のケーブルは、40年前に敷設した古いケーブルと比較して、材料や製造条件、品質管理の基準等が相当違っているはずです。既に使っている現場の電気ケーブルの一部を使って試験すれば、ずっと正確なはずですが、敢えて新品で試験するのは大いに疑問です。

 

電気ケーブルの劣化評価の信頼性(評価手法・ばらつき)(既設ケーブルの劣化)

 放射線や熱、高温の水蒸気などによる電気ケーブルの劣化を確認する試験では、評価方法が余りにも簡単で、試験回数も少なく、試験の再現性も確認していません。また、試験結果を見ると、ほぼ同じ条件で試験したにも拘らず、推定した耐用年数が何倍もばらついており、重要な試験であるにも拘らず、結果のばらつきや測定誤差さえも考慮されていません

 

電気ケーブルの劣化評価の信頼性(外力・振動・傷等の影響)(既設ケーブルの劣化)

 現場に敷設されている古い電気ケーブルは、長年にわたって引張りや曲げ、ねじれ等の力を受けている可能性があります。また、頻繁に地震動による引張や振動等によって、ケーブルに細かいひび割れが発生している可能性もあります。さらに、東海第二では、建設時にケーブルが損傷したため、多くのケーブルを補修したとの情報があり、ケーブルの機能に影響していないか不明です。

 

古い電気ケーブルの継続使用に伴う短絡・断線の発生(既設ケーブルの劣化)

 既に敷設している電気ケーブルのほとんどは、その状況を直接点検することができません。日本電線工業会によれば、電線やケーブルの耐用年数は、最大でも30年を目安としており、交換することを推奨しています。また、低電圧ケーブルの点検は、電気絶縁抵抗を測定するくらいしか方法がなく、ケーブルの健全性を事前に確認するのは難しいようです。このため、突然、短絡や断線が発生し、プラントの状態を把握できなくなったり、機器を制御できなくなるおそれがあります。

 

ケーブルを防火シートで覆うのは実施が難しく、内部発熱を助長する(既設ケーブルの防火対策)

 国の安全審査では、既設の古い非難燃性の電気ケーブルは、ケーブルトレイと一緒に防火シートで巻けば、難燃性のケーブルと同じくらいの難燃性能があるとしています。しかし、これは大いに疑問です。

 電気ケーブルは何10本も束になってケーブルトレイに載っており、防火シートで確実に覆うことができない場所は幾らでもあるはずです。逆に、防火シートで被えば、劣化ケーブルが短絡して発火した場合、シートによって放熱が妨げられ、また、消火も困難になります。

 

水蒸気爆発の解析は、計算条件次第で幾らでも結果が変動する(炉心溶融事故)

 専用の計算コードを使って水蒸気爆発を解析していますが、炉心溶融物の発生量やその組成、温度或いは炉心から溶融物が落下する状況等をどのように仮定するかによって、計算結果はいくらでも変化します。特に、BWR原子炉では、圧力容器の底部に200本程の制御棒が貫通しており、これらが大きな開口部に拡大して、溶融物が一気に落下するような場合を想定していません。一気に落下すれば、その下に設置した水プールで大きな水蒸気爆発を起こします。

 

融体が炉心下部に張った水に落下すれば、水蒸気爆発を起こす(炉心溶融事故)

 原子炉の炉心が溶融した場合、3000℃を超える高温の溶融物が炉心から流れ落ちて下にあるコンクリートと反応して水素ガスが発生するため、爆発の可能性があります。また、炉心の下に水があると、溶融物が落下すると水蒸気爆発を起こす可能性があります。このため、ヨーロッパの原子炉では「コアキャッチャー」というものを設置し、水やコンクリートを使わない方法で溶融物を受け止める方法を採用しています。

 これに対して東海第二では、原子炉の下に深さ1mの水を張っておき、この水で溶融物を受け止めるとしています。計算コードで安全性を解析したところ、水蒸気爆発が起こったとしても大きな破壊力はないとしていますが、これは溶融炉心が少しずつゆっくり落下すると仮定して計算しているためです。

 公開されている資料では、水蒸気爆発等の具体的な計算条件などが、ほとんど白塗りされていて見えません。事業者が都合のいい条件で計算しているのではないでしょうか。一般に、高温の溶融物を取り扱う金属精錬などの分野では、水蒸気爆発の事故が発生しており、高温の溶融物が水と接触しないように、厳重に管理しています。

 

ペデスタル内の細かな製作物は落下物で機能しない(炉心溶融事故)

 炉心溶融物がその下のペデスタル部へどのように流下するか、事前には予測できません。今後、事業者が設置するとしている小さな構造物が、本当に意図したように機能するかどうか大変疑問です。例えば、側壁に設置する注水配管の開口部や、ペデスタル底面から立ち上げた排水管、そのノズルを囲う多孔板のカバー、さらに、底部のドレン・スリット等の細かな部分が、流下した溶融物や水素爆発等によって変形したり、詰まったりする可能性が十分考えられます。このような思い付きで作った設備が、確実に機能するとはとても思えません。

 

ペデスタル内に張る耐熱パネルが損傷する(割れ・剥がれ)(炉心溶融事故)

 高温の溶融物がコンクリートと接触して水素を発生しないように、ペデスタル部の壁や床面に沢山の耐熱パネルを張るとしていますが、このパネルは脆いセラミック材料であるため、急激な温度変化や衝撃或いは地震によって、簡単に剥がれたり、ひび割れを起こす可能性があります。

 

溶融物の状態によっては再臨界する可能性がある(炉心溶融事故)

 福島第一の1~3号機では、現在でも、圧力容器から流下した炉心溶融はペデスタル部へ流下し、さらにその一部は格納容器の底まで落下しているようですが、具体的には、ほとんど確認できていません溶融物は核燃料や金属等が不均一に混じり合った状態で、水中に分布していると思われます。分布の状態が変化すると、場合によっては再び臨界を起こすおそれがあります。東海第二においても、溶融物による再臨界が起こらないとは断言できません。

 

太平洋プレート内で発生する地震(北部)に対する耐震性を確認していない(地震)

 2018年に、茨城県が今後発生する可能性のある地震について報告書を作成しました。この中で、「太平洋プレート内で発生する地震(北部)」が発生すると、東海村は震度6強と評価されていますが、この地震は東海第二の許可審査では評価されていません。許可審査で評価した「F1断層、北方陸域の断層及び塩ノ平地震断層」による震度5弱よりもかなり大きいものです。

 この太平洋プレート内地震(北部)の地震動に対して、東海第二の炉心構造物(例えば、シュラウド等)や接続配管等が破損しないか、評価されていません。

12/23「茨城県地震被害想定調査報告書」、表4.1-2

 

受電系統の受電容量及び耐震性(地震)

 上記の太平洋プレート内地震(北部)も含めて、発電所の外から受電する2つの受電系統(東海原子力線、村松線・原子力1号線)の鉄塔等が、地震や津波の引き波に伴う漂流物によって送電系統が損傷し、受電できなくなるおそれがあります。特に、受電容量の小さな南側の「村松線・原子力1号線だけが残った場合、原子炉の安全系設備に必要な電力が供給できるかどうか不明です。

 

緊急時対策所の耐震性が疑問である(地震)

 東海第二の緊急時対策所の建屋は、免震構造ではありませんので、必要な機能が確保できるか疑問です。

 

津波漂流物の衝突や海砂の堆積によって、冷却水の取水が阻害される(津波)

 津波漂流物について、発電所から半径5kmには定期航路がなく、小さな漁船が漂流して防潮堤等に衝突したとしても、冷却水の取水に影響はないとしていますが、全く理解できません。東海第二のすぐ北側の日立港や南側にあるひたちなか港は、3km以内にあります。また、大型のRORO貨物船などが、毎日定期航路で頻繁に往来しています。また、国内外の大型船も頻繁に寄港しています。

 これらの大型船は、津波警報が出されれば、津波が到来する前に全てが必ず沖合まで退避できるとは断言できないはずです。2018年に、関西空港の近くでタンカーが漂流し、関空連絡橋を破損した事例や東日本大震災で大型船が陸に乗り上げています。

 写真はひたちなか港に停泊する大型船ですが、こうした大型の漂流船が東海第二の取水口等を破損する可能性は否定できません。また、大小の様々な津波漂流物が取水口を塞いだり、津波によって海砂が運ばれ、貯留堰の内側に砂が堆積して取水部を埋めてしまう可能性があります。


敷地内に埋設している低レベル放射性廃棄物が流出する(津波)

 東海第二で防潮堤が作られたとしても、低レベル放射性廃棄物はその外側の敷地に埋設されています。津波によってドラム缶などが内陸側或いは海洋へ流出する可能性があります。

 

水で放射性物質を吸収するフィルターベントは万能ではない(放射性物質の大気放出)

 東海第二の格納容器内に放射性ガスが溜まった場合、それを大気中へ放出する際には、フィルターベント(水による吸収塔)の中を通して放射性物質を吸収液に除去するとしていますが、さまざまな限界があります。

 例えば、放射性物質の種類や化学形態、温度、吸収液の状態などによって、吸収性能が大きく変化します。例えば、ある程度使用すれば吸収能力が低下するので、人が細かく処置しなければ機能を維持できません。また、洗浄液の供給設備や排気系の設備等も含めて、耐震性が確保されているか不明です。

 

ブローアウトパネルを解放すれば、内部の放射能も放出(放射性物質の大気放出)

 原子炉建屋の壁の一部に大きなブローアウト扉を設置し、必要があればこれを開いて建物に溜まった水素ガス等を外へ放出するとしています。しかし、これによってどのような放射性物質が、どのくらい放出されるかは全く不明です。

 

移動式ポンプ車・放水砲は効果が不明で、廃水が流出する(放射性物質の大気放出)

 重大な事故やテロのような妨害行為によって、原子炉建屋が破損した場合、開口部へ大型のポンプ車を使って海水を放水し、放射性物質を海水に吸収させるとしています。

 しかし、実際にどのくらい効果があるかは、誰にも分かりません。何ともお粗末で無責任な話で、やってみなければ全く分かりません。うまく放水できたとしても、放射性物質を含んだ大量の海水が、敷地外にばらまかれて、敷地外へ流れ出すかも知れません。

 

施設の運転操作や維持管理を行う人的ソフト面が確認されていない

 上記の各項目は、施設や設備に関することだけです。実際には、これらの施設や設備をいつでも使えるように、普段から作業者が常に適切に維持管理して置かなければなりません。また、事故時には作業者がそれを操作します。すなわち、施設や設備だけの問題ではなく、むしろそれらを操作し、取り扱う作業者が非常に重要です。

 しかし、この人的な側面については、新規制基準による安全審査の対象ではありません。施設や設備の運転操作や保守管理などに関する人の管理は、全て保安規定等によって規制されていますが、結局、最終的には事業者の自発性や安全確保に対する姿勢に委ねられるしかありません。これは安全を考えるうえで、非常に重要なことですが、保安規定の内容は全く公開されていません。事業者が本当に信頼できるかどうかは、普段の行動を見ればわかります。

主な参考資料:

「日本原子力発電株式会社東海第二発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(発電用原子炉施設の変更)の核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に規定する許可の基準への適合について」(平成30年9月26日)、原子力規制委員会