高レベル放射性廃液は、清澄工程と抽出工程から発生する
高レベル放射性廃液は、再処理工程のうち、使用済み燃料を硝酸で溶解した後の清澄工程で発生する不溶解残渣と、溶媒抽出工程で溶解液からウランとプルトニウムを分離した後に残る放射性廃液を混合したものです。
この清澄工程で発生する不溶解残渣は、溶解液を金属製のフィルタに通すことによって、溶け残りっている燃料の微粒子などや金属の細かな微粒子などで、スラッジとして分離されるものです。また、溶媒抽出工程では、抽出剤であるリン酸トリブチル(TBP)と希釈溶媒(ドデカン)の混合物を使って、溶解液の中からウランとプルトニウムだけを分離します。その結果、放射性物質のほとんどを含む硝酸廃液が残りますが、これが高レベル放射性廃液(HAW)で、黒い液体です。
高レベル放射性廃液は、再処理で最も放射能が濃縮された廃液
この高レベル放射性廃液は、原子炉から取り出した使用済燃料の中に蓄積している核分裂生成物や、ウランよりも重い超ウラン元素(Np、Am、Cmなど)のほぼ全てが濃縮されており、再処理施設の中で最も放射線が強い廃液です。もちろん、ウランやプルトニウムも一部が混入しています。
また、高レベル放射性廃液には、抽出工程で添加される様々な薬品類や、溶媒を再生するアルカリ洗浄工程で分離された溶媒劣化物(DBP、MBPなど)を含む廃液や、抽出器内で発生した界面クラッド(固体)、さらに使用済み燃料被覆材や再処理工程内で発生した金属の腐食生成物なども全て含まれています。
この高レベル放射性廃液は、保管するための準備として、濃縮缶の中で加熱して水を蒸発させて容積を減らすと同時に、ホルマリンを加えて硝酸を分解(脱硝)して濃度を下げます。(この過程で沈殿も発生する※)
最終的に、高レベル放射性廃液は、不溶解残渣や金属微粒子なども含んだ極めて高い放射能を持つ硝酸廃液(約2モル/L)として保管されています。
※JAEA-Review-2008-037再処理プロセス化学HB, p.522
高レベル放射性廃液に含まれる成分は、ばらつきが大きい
高レベル放射性廃液に含まれる主な成分は、溶媒再生で使用したアルカリ試薬のナトリウム(Na)が最も多く、そのほかに鉄(Fe)、Cr、Ni、Zn、Sr、Ru、Pd、Ce、Zr、Mo、Tc、Ba、Y、La、Nd、Li、Pr、Sm、Euなどの元素です。ただし、不溶解残渣等の固体分は放置すると時間とともに沈殿してしまうので、分析する際に、この固体分がどの様に取り扱われているかは不明です。
また、放射性物質として濃度の高い成分は、セシウム(Cs-137)、ルテニウム(Ru-106)、Sr-90、Y-90、Ce-144、Pr-144、Eu-154, -155、Co-60、Sb-125、Nb-95、Zr-95などが報告されています。また、超ウラン元素では、プルトニウム(Pu-238、Pu-239、Pu-241)、アメリシウム(Am-241)、キュリウム(Cm-244、Cm -245)、ネプツニウム(Np-237)などが主なものです。ただし、保管している貯槽毎に成分量にかなりばらつきがあります。また、強い放射線のある場所でサンプルを採取し、また分析するため、誤差もあると考えられます。
・PNC TN8410 97-015 高レベル放射性廃液組成分析結果(Ⅱ)(1997年1月)
・東海再処理施設(TRP)におけるプルトニウム溶液及び高放射性廃液の固化・安定化の実施について、平成26年(2014年) 3月13日、日本原子力研究開発機構
高レベル放射性廃液中の固体分の沈降速度は、貯槽によって大きな差がある
高レベル放射性廃液に含まれる固体分の沈降速度は一定ではなく、1時間程度ですぐに沈降するものと、なかなか沈降しないものがあります。これは貯槽によって、廃液に含まれる固体分の割合やその成分濃度、固体微粒子のサイズなどの違いによると思われます。
・PNC TN8410 97-015 高レベル放射性廃液組成分析結果(Ⅱ)(1997年1月)
白金族成分が貯槽の底などに沈殿すると、容器が腐食する
東海再処理施設の高レベル放射性廃液中にある沈殿物については、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)及びパラジウム(Pd)が主成分であると報告されています。これらのうち、RuとPdはいわゆる貴金属(白金族元素)で、これらが貯槽の底やタンク内の冷却水配管の表面などに沈殿すると、沈殿物とステンレス材料との間で電池が構成され、標準電位の低いステンレス材料が溶解します。この現象は「ガルバニック腐食」として、一般に良く知られています。
このため、高レベル放射性廃液を保管している貯槽では、その中心部にパルセータ管を設置し、その内側の廃液を圧空で上下に脈動させ、その動きによって貯槽内の廃液を撹拌して固体分が沈殿しないようにしています。
しかし、完全に沈降をなくすることはできませんし、何よりも実際に貯槽内がどんな状態になっているか、直接確認する方法はありません。
貯槽の接液部は溶接でステンレス材が接合されており、溶接部の材料腐食のおそれがあります。また、上記の白金族などがステンレス材表面に沈殿すれば、ホットスポットが形成され、局所腐食によって廃液が漏えいする可能性があります。
・PNC TN8410 97-015 高レベル放射性廃液組成分析結果(Ⅱ)(1997年1月)
高レベル放射性廃液は、深地層に処分すべきものである
「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(2000年制定)にも記載されているように、高レベル放射性廃液は、約1万年以上にわたって人が生活する環境から隔離する必要があるため、先ずガラス固化体として廃液自体が直接流動しない形態に変えた上で、さらに放射性物質が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて、最終的には地下300mよりも深い地層中に埋めると定めています。
しかし現状では、高レベル放射性廃液は人口が密集する市街地にある再処理施設で液体のまま保管されている状態です。また、今後もかなりの長期間にわたってこの続く状況が続く見通しであり、普段あまり意識していませんが、実際には極めて大きなリスクがすぐ身近にあります。
英国では、貯槽で保管する高レベル放射性廃液を200立方メートル以下に制限している
英国カンブリア州にあるセラフィールドでは、古くからマグノックス原子炉の使用済み燃料を再処理してきました。その後さらに、TRPの6倍の1200トン/年の処理能力を持つ大型のソープ再処理工場を建設し、1997年から軽水炉燃料の再処理を行ってきました。我が国の使用済み燃料もここで再処理をしていましたが、2005年に溶解工程と清澄工程に間で、配管が破断して83立方メートルの燃料の溶解液がセル内に漏えいする事故が発生し、結局、この工場を廃止する作業が現在も進められています。
このセラフィールドで発生した高レベル放射性廃液は、専用の廃液保管施設(HAST)内の21基のステンレス製貯槽で保管しています。貯槽4基のうちの1基を常に予備としており、古い貯槽を順次廃止して新しいものに交換していますが、従来から貯槽の冷却水コイルの腐食などが増加したため、廃液の事故的な放出やテロリズムに対する懸念から、2015年以降は、規制当局(HSE/NII)が、貯槽で保管する廃液量を200立方メートル以下にするように制限しています。
ちなみに、このセラフィールドに最も近い市街地は、人口が約7万人のカーライル市で、このサイトから約60km離れています。
・M. Forwood, “The Legacy of Reprocessing in the United Kingdom, Research Report
No. 5”, Int. Panel on Fissile Materials, p.19, (2008)
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