高レベル放射性廃液を貯槽で保管するのは極めて危険である
高レベル放射性廃液は、各地の原子力発電所から出た使用済み核燃料を東海村にある再処理施設で再処理することによって発生したものです。使用済み核燃料からウランとプルトニウムの大半を分離した後に残った廃液で、放射能の殆どが濃縮された最も危険な廃液で、溶け残った固体粒子なども一緒にして混合された状態で、現在、約400立方メートルが貯槽で保管されています。もちろん、ウランやプルトニウムの一部も含まれており、極めて放射線が強いので人が接近することはできません。
このため、コンクリート製の部屋(セル)の中に設置した5基の貯槽(ステンレス製、容量は120立方メートル、板厚さは22mm)に分けて保管しています。
(出典:東海再処理施設における高放射性廃液のガラス固化について、平成27年12月17日、日本原子力研究開発機構)
この高レベル放射性廃液は、高温で溶けたガラスと混合して固化し、ステンレス製の容器に封入したうえで、300mよりも深い地中に埋めることになっています。しかし、現状では、ガラス固化の作業も地層処分も具体的に見通しが立っていませんので、今後とも長期にわたって、東海村にある再処理施設で保管しなければなりません。
この高レベル放射性廃液は、放射能の崩壊熱によって発熱するので、常に冷却する必要があります。冷却水が停止してしまうと、廃液が沸騰し、水が蒸発して乾固し、固形分が貯槽の底に残りますが、この過程で大量の放射性物質が空気中に飛び出して、排気として施設外の大気中へ放出される危険があります。
また、この廃液は、強い放射線によって水が分解されて水素ガスを発生するため、爆発が起こらないように、常に貯槽内へ空気を吹き込んで水素を希釈する必要があります。この希釈空気が止まれば、水素ガスが爆発し、設備が破損して大量の放射性物質が施設外へ放出される危険があります。
さらに、この廃液には、硝酸で溶けなかった細かな固体粒子を大量に混ぜた状態で保管しています。この粒子は白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム等)が主成分であることが分かっており、これらがステンレス製貯槽の底などに沈殿すると、「異種金属接触腐食」(ガルバニック腐食)を起こし、貯槽に穴が開いて廃液が漏れ出す危険があります。
このため、廃液中の固形分がタンクの底や、廃液中を通っているたくさんの冷却水配管の表面などに沈殿しないように、常に圧縮空気で廃液を上下に脈動させて撹拌しています。
高レベル放射性廃液の保管に伴って、発生する可能性ある重大な事故
高レベル放射性廃液を貯槽で保管する場合、発生する可能性のある主要な重大事故は、以下のとおりです。これらは工学的な観点から当然想定されるもので、これら以外にも様々な事故事象が考えられますが、代表的なものだけを示します。
① 冷却機能の喪失に伴う高レベル放射性廃液の蒸発・乾固による放射性物質の大気放出
② 冷却機能の喪失に伴う高レベル放射性廃液等の逆流による施設内外への漏えい
③ 地震や腐食による貯槽等の破損と、津波海水の侵入による高レベル放射性廃液の施設内外への漏えい
④ 水素ガスの希釈機能の喪失に伴う水素爆発による放射性物質の大気放出
⑤ 1次冷却水系配管の破損や腐食による高レベル放射性廃液の漏えい
⑥ ガラス溶融炉やその周辺設備から高レベル放射性廃液等の漏えい
⑦ 冷却塔等の破壊に伴う廃液の蒸発・乾固による放射性物質の大気放出
⑧ サイト内の別建家で、大量に保管しているプルトニウムの臨界による放射性物質及びプルトニウム粉末の大気放出
⑨ 上記の①~⑧が同時に発生する複合事故
これらの事象のうち、①~⑤についてその原因と事象の主な進展ルートを図1に示す。
ここで、赤字で示した内容については、事業者は発生すると想定していません。
これらの重大な事故や施設の破損が発生すれば、高レベル放射性廃液の漏えいなどを止めることは非常に難しいため、放射性物質が長期間にわたって大気中や地中・地表へ、或いは、海へ漏えいし続けることになります。原子炉の事故では、放射性物質は主に大気中へ放出されますが、高レベル放射性廃液の場合は、流動しながら時間とともに徐々に拡大すると考えられ、その拡がりや影響の及ぶ範囲を具体的に推定するのは困難です。
このため、高レベル放射性廃液が直接環境中(地中、地表或いは海域)へ漏えいしてしまった場合には、周辺地域へ人が接近することができず、拡大防止等の処置を行うのは困難です。また、漏えいした廃液から大気中へ放射性物質が放散されるため、体内へ吸入しないようにしなければなりません。
事業者は高レベル放射性廃液が環境へ直接漏れ出す事故を想定していない
事業者は急に大きな事故が起こるとは想定していません。また、高レベル放射性廃液そのものが、直接環境へ漏れ出すことはないとしており、その影響評価も行っていません。
初めは小さな異常が発生し、それがゆっくり時間をかけて進展するとしており、異常は初期の段階で容易に検知され、すぐに対処することによって、決して大きな事故には進展しないとしています。このため、事業者は図1で示した事故のうち、①と④の初期段階しか想定していません。それ以外の赤字で示したほとんどの事故は、どれも発生しないとしています。
事業者は、事故の状況に応じて作業者が移動式の簡易な設備を使って対処するとしていますが、初期の段階で確実に事故の拡大を防止できるという保証は、何もありません。対処に失敗すれば、周辺環境へ放射性物質が大量に放出され続けることになります。
また、事業者は、高レベル放射性廃液の「貯槽内の圧力が上昇した場合には、貯槽内のガスは緊急排気系を経て環境へ放出されるので、貯槽内圧力の過度な上昇と環境への放射性物質の大量放出を防止する。」としています。
しかし、例えば水素爆発などによって急激に圧力が上昇しすれば、排気フィルタが破損する可能性があります。また、廃液の沸騰・蒸発が続けば、排気フィルタに水分が付着し、フィルタが目詰まりしてやがて破れる可能性があります。こうなれば、放射性物質は全く除去されず、1週間以上にわたって全量が大気中へ放出されることになります。
・「東海研究開発センター再処理工場において大地震等による高レベル放射性廃液等の環境放出事故防止に関わる再質問状」の回答とそのコメント一覧表(2012年6月25日提出)
・(再質問状に対する)日本原子力研究開発機構の回答(2012年7月24日回答)、p.11~12
施設の老朽化や材料の腐食の状況は、確認することができない
廃止措置の認可や新規制基準に対する適合性の審査において、事業者は施設・設備の老朽化や貯槽や配管などの金属材料の腐食について、ほとんど言及していません。この2点を意識的に避けていると思われます。
特に、高レベル放射性廃液を保管している貯槽や廃液が通る配管類、それらの継ぎ手などは、どれも溶接によって製作されていますが、溶液に浸かっている溶接部分で、腐食が進行することが良くあります。また、廃液中の固形分が全く沈殿しないように撹拌することはできませんので、どこかに沈殿した白金族粒子とステンレス材料が局所的に電池を形成し、ステンレスが溶け出して腐食が進んでいる可能性があります。しかし、設備の内側が、実際にどんな状況になっているかは確認する方法がありませんので、いつ廃液が漏れるかは分かりません。
・東海再処理施設安全監視チーム(原子力規制委員会)、http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tokai_kanshi/index.html
再処理施設の近くには、約4トンのプルトニウムが保管されている
東海再処理施設がある核燃料サイクル工学研究所では、主に酸化物粉末の状態で約4トンのプルトニウム(再処理施設に195 kg、プルトニウム施設に3918 kg)が保管されています。
万一、このプルトニウムによって臨界事故などが発生すれば、核分裂によって発生する放射性物質やプルトニウム粉末が、大気中へ大量に放散される危険があります。このような事態が発生すれば、サイト内の他施設にも重大な影響を与えます。また、サイト外の周辺地域へ与える影響も計り知れません。酸化プルトニウムは重いので、そんなに遠くまでは飛散しないという意見もありますが、明確な根拠データはありません。
・プルトニウム管理状況(2019年12月末現在)、日本原子力研究開発機構、https://www.jaea.go.jp/database/pu/
施設や設備を維持し、操作する「人的な側面」が重要である
今後、再処理施設の内部から放射性物質を全て取り出し、内部を洗浄し、順次、解体撤去し、高レベル廃液をガラス固化しなければなりません。また、今後少なくとも70年以上の期間をかけて、大量に保管しているその他の放射性廃棄物を安全に処置し、保管管理しなければなりませんが、これらの作業を行うのは作業者です。また、今後、事故などが発生した場合に、その状況に応じて移動式の設備などで対処するのも作業者です。
こうしたひとに関する人的な側面は、施設や設備と同じように重要ですが、廃止措置の許認可の中では審査されていません。これとは別に、保安管理に対する事業者の大まかな考え方や方針などが、保安規定の認可において審査されています。具体的な内容については、実際に施設や設備を維持管理し、運転しながら、随時確認してゆくことになります。
事故の影響は、簡易な5因子法などで推定されている
通常、事故によって大気中へ放出される放射性物質の量は、5種類の因子をそれぞれ計算し、それら数値の掛け算として推定しています(5因子法)。すなわち、
大気中へ放出される放射性物質の量 = MAR × DR × ARF × RF × LPF
ここで、
MAR: 事故の発生場所にある放射性物質の放射能の量(Bq)
DR : MARのうち、事故の影響を受ける放射性物質の割合
ARF: 空気中に飛び出す微粒子などの割合
RF : 呼吸によって、人の体内へ取り込まれる微粒子の割合
LPF: 放射性物質が環境中へ放出されるまでの途中経路で、除去されない割合
このように、事故の発生場所に存在していた放射性物質の量(MAR)をベースにして、その一部が空気中へ飛び出し、最終的に人の体内に取り込まれる放射性物質の量を、5つの数値を掛けて推定していますので、算出方法としては大まかなものです。また、これらの5つの数値を計算する際には、様々な仮定や基礎データが必要になります。
事故の影響評価は、前提条件や使用する基礎データによって大幅に変わる
現実に発生する事故の状況は非常に複雑であり、事前に分からないことも沢山ありますが、事故の影響を評価するための前提条件や使用する基礎データは、事業者が自由に選択しています。
しかし、この基礎データは決して十分なものではありません。これらの多くは外国で発表された古いものが多く、しかも模擬物質を使った実験で得られたものや、実験条件や測定誤差などが不明で、そのデータがどこまで信頼できるかが不明なものが多くあります。
例えば、大気放出で問題になるルテニウムは、+2~+8の7種類の原子価があるため、溶液中でも大気中でも、状況によって化学形態が複雑に変化します。その結果、同じ条件で実験を行っても、実験結果がばらついて再現性がなく、物質収支も合わないことが良くあります。
結局、ある事故でによる影響の評価結果は、事業者の選択によって幾らでも変わります。事業者が報告する評価は単なる1例であって、別の評価者が実施すれば、幾らでも結果は変わり得ます。しかも、東海再処理施設については、事故事象の選定過程やその影響評価の結果などについて、事業者はほとんど公開していませんので、どんな評価をしているのか詳細は不明です。
東海再処理施設と東海第二原子力発電所は、わずか2.8kmしか離れていません。どちらも市街地に立地しており、30km圏内に約100万人の市民が生活しています。上記のような重大な事故が発生した場合には、両施設が相互に影響を与えないとはとても考えられません。また、少なくとも100万人もの市民が、無事に広域避難するのは不可能です。
最近、30km圏内の市民は、むしろ避難せず屋内に留まる方が安全であるとの話がありますが、極めて安易な説明です。端的に言えば、どちらも危険なのです。一般の市民がどの程度放射線で被ばくするかは、誰も正確に予測できません。
こうした事実を考えれば、少なくとも東海第二原子力発電所は、これ以上敢えて運転するべきではありません。また、東海再処理施設は重大な事故の想定や安全対策を大幅に見直す必要があります。
・NUREG/CR-6410, Nuclear Fuel Cycle Facility Accident Analysis Handbook, March 1998
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