地震や津波、腐食等によって、高レベル放射性廃液が施設外へ漏えいする可能性がある

2020/11/03

原子力 東海再処理

 東海再処理施設では、使用済み核燃料を再処理した結果、現在、約400立方メートルの高レベル放射性廃液は、主工場(MP)のすぐ横に造られた専用の建家(HAW)の貯槽で保管されています。放射能が最も濃縮されたこの廃液は、液体のままでは貯槽から漏れ出す危険性があるため、まず溶融したガラスと混合して固化体にしなければなりませんが、問題が多くてなかなか進みません。

このため、今後も長期間にわたって、この高レベル放射性廃液をそのまま保管しなければなりません。具体的には、HAW建家の地下1階~地上1階にある6個のコンクリート製の部屋(セル)の中に、1基ずつ設置した大きな貯槽に分けて保管しています。


1.高レベル放射性廃液の保管に伴う重大な事故の概要

 今後も長期間にわたって高レベル放射性廃液を液体のままで貯槽に保管する場合、発生する可能性のある重大な事故として、代表的な5種類の事故について、その原因と主な事故の経過を図1に示します。

図1 高レベル放射性廃液の保管に伴って発生する可能性のある主な重大事故

 

ここで、事業者は図1に示す事故のうち、黒字で示した初期段階の小さな事故しか想定していません。このため、事業者は何らかの事故が発生した場合、移動式の簡易な設備を人が設置して対処するとしています。しかし、上記の赤字で示すような大きな事故は、科学的な観点から観ても、十分現実に起こる可能性があります。

以下では、高レベル放射性廃液が施設外へ漏れ出す事故ついて、具体的に紹介します。

 

2.地震や腐食等によって、高レベル放射性廃液が漏えいする

 地震や老朽化に伴う設備の腐食などによって、高レベル放射性廃液が貯槽からセルの内外まで漏れ出る可能性があります。

2.1 事業者は高レベル放射性廃液の小さな漏えいしか想定していない

事業者は、高レベル放射性廃液が配管から漏えいし、漏れた廃液が発熱して沸騰する可能性があるとしています。しかし、漏えいした廃液はセル内に閉じ込められ、放射性物質の一部が空気中へ移行してもセル排気系のフィルタで除去されるため、わずかの放射性物質しか大気中へ放出されないとしています。しかし、この想定は余りにも小さな事故想定です。

図2 事業者が想定する高レベル放射性廃液のセル内漏えい事故(出典:JNC-TN8410-99-005、東海再処理施設の事故の拡大防止策及び影響緩和策の検討(1999年2月)JAEA)

 

2.2 廃液貯槽や配管等の腐食状況は直接確認できない

使用開始から約25年後の時点で、主工場(MP)建家内にある小型の高レベル放射性廃液貯槽(272V16)について、事業者が腐食の状況を実際に調べた例があります。

 強い放射線のため人が直接確認できないので、測定装置を遠隔操作で移動させながら、一本の線に沿って貯槽の外側から板厚を超音波で測定したものです。その結果、板厚は18.3mm~19.5mmであったとしていますが、数値のばらつきが大きく、設計上の板厚(19mm)と大きく変わらないということしか分かりません。また、この測定した線に沿った部分以外については、不明で何とも言えません。

(出典:JAEA-Tech-2014-032、再処理施設の定期的な評価報告書(2014年8月5日)、JAEAp.420557)

 

こうした施設・設備の老朽化の状態を把握することが本来最も重要です。しかしこの事例でも分かりますが、高レベル放射性廃液の貯槽や関連する配管類などについては、溶接線の周辺や貴金属粒子の沈殿がある場所などで腐食が促進されることが多く、どこでも一様に腐食する訳ではありません。

結局、設備の内部の状態を直接確認できないので、問題がないかどうかを明確に評価できません。現実には、事業者が10年毎に何らかの評価を行って国へ報告するだけです。

 

2.3 貯槽や配管等の腐食によって、高レベル放射性廃液が漏えいする

貯槽に保管している高レベル放射性廃液は硝酸濃度が高く、たくさんの成分が混じっているので電気が流れ易く、腐食性の強い金属成分(PuNpRuCeなど)も含まれています。特に、ネプツニウムは、微量でも混入していると、ステンレス製の濃縮缶などの腐食を加速することが分かっています。

また、高レベル放射性廃液には、粒子状の固体分も大量に含まれています。特に、白金族金属(RuRhPdなど)が主成分の粒子が貯槽の底などのステンレス表面に沈殿してしまうと、その場所(ホットスポット)で局所的に異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が発生してステンレスの溶解(腐食)が加速され、最終的には貯槽に穴が開いて廃液が漏れ出す危険性があります。

パルセータで周期的に廃液を脈動させて撹拌しているのは、こうした白金族の沈殿を防止することが大きな目的です。事業者は作業員のパルセータ圧空バルブの誤操作や圧空供給系機器の故障などによって、パルセータが停止したとしても、ホットスポットの発生による貯槽底部などの腐食が進行するには長時間を要することから、直ちに廃液が漏えいしないとしています。また、このパルセータによる撹拌は、常に連続して行っている訳ではなく、ある時間間隔をおいて、間欠的に一定時間の間だけ行っているものです。

最終的には、貯槽の内部を直接確認する手段がないので、本当に防止できているかどうか分かりません。

 JNC-TN8410-99-004(3)東海再処理施設の事故の発生防止策の検討 第3分冊(1999年2月)、p.3.12-5、別紙-1-18


2.4 貯槽を固定するボルトの折損によって、高レベル放射性廃液が漏えいする

事業者が新品のボルトを使って行った実験によれば、貯槽をセル壁に固定しているボルトが耐えられる限界応力(232MPa)は、実際に発生すると想定したせん断力(145MPa)の約1.6倍だそうです。実際に発生するせん断力は大きく変化する可能性があるので、十分な余裕があるとは思えません。また、2011年の東日本大震災によって、既に何らかの損傷を受けているかも知れません。

廃液貯槽の上面には、30本以上の配管が接続されており、貯槽が有意に移動すれば、これらの配管が破損して廃液や放射性ガスがセルの内外へ漏れ出す可能性があります。

(出典:高放射性廃液貯蔵場(HAW施設)高放射性廃液貯槽(272V31V36)の据付ボルトのせん断強度試験について(令和2年5月12日)、JAEA)

 

3.津波海水が高放射性廃液を保管するセル内へ侵入する

 HAW建家及びガラス固化(TVF建家については、連絡管路、T15、T20及びT21の地下配管トレンチが接続しています。これら以外にも、配管や給電ケーブル用の地下トレンチ、マンホール、建家の扉や窓や給排気ダクトなどの様々な開口部があり、津波海水が侵入し、漏えいした廃液が施設外へ流れ出る経路を全て特定し、確実に防止するのは極めて困難です。

 ここでは、地震とともに発生する津波が、配管トレンチの接合部などからHAW建家内へ侵入する可能性があることを記載します。

・再処理施設に係る廃止措置計画認可申請書の一部補正について(平成30年2月28日)、JAEA

 

3.1 事業者はセル内に海水が浸水する可能性を否定していない

事業者は、廃止措置の申請書比較表の六1.(2)3)の「津波による損傷の防止」において、HAW建家及びTVF建家は、「工程洗浄や系統除染に伴う廃液処理も含めて一定期間使用することから、令和20年頃まで・・・両建家内へ津波を浸入させない措置を講じる」としています。

しかし、これは事業者が考える津波対策を行うというだけで、津波が建屋内に侵入しないと保証している訳ではありません。

・再処理施設に係る廃止措置計画変更認可申請書の一部補正について(令和2年5月29日)、JAEA

 

実際、事業者は海水が建家内へ侵入する経路は存在しないとする一方で、仮に貫通配管の周囲に幅5mmの小さなひび割れが発生したと仮定し、海水でセルは水没しないと説明しています。しかし、もっと大きな破損が発生すれば、セルは確実に水没します。

また、仮にセル内に海水が流れ込んだ場合は、作業員がセルの点検口からホースをセル内へ入れ、仮設のポンプ、ホースを使って屋外の仮設水槽へ抜き出すとしていますが、海水に放射能が含まれていたらどう対処するのでしょうか。

(出典:HAW施設建屋貫通部からの浸水の可能性について(令和2年4月27日)、JAEA)


・ガラス固化技術開発施設(TVF)ガラス固化技術開発棟の廃止措置計画用設計津波に対する津波影響評価に関する説明書(建家壁貫通部シール材等の健全性確認結果)(令和2年7月27日)、JAEA

 

3.2 建家やトレンチの繋ぎ目等が破損し、津波海水が建家内へ侵入する

連絡管路及びT15トレンチは、(地上と地表付近の地下で)MP建家とHAW建家を結ぶもので、長さ約1.4mの鉄筋コンクリート構造で、幅は約2.5mです。HAW建家側に取り付けられており、高レベル放射性廃液などを移送する配管が通っています。

事業者によれば、これらのトレンチとMP建家とのクリアランス(隙間)は、連絡管路が5cm、T15トレンチが10cmです。通常、このクリアランス部は、シール材やモルタルなどで埋めているはずですが、詳細は公開されていません。

・再処理施設に係る廃止措置計画変更認可申請書の一部補正について(令和2年5月29日)、JAEA

 

基準地震動によって、MP建家とHAW建家はそれぞれ固有の周期で独立に揺れ動きます。事業者によれば、両方の建家が動く幅は、単純に足し合わせても最大でわずか約2cm以下であり、クリアランスよりも小さいので、両建家は衝突しないと結論しています。

(出典:HAW施設建屋貫通部からの浸水の可能性について(令和2年4月27日)、JAEA)

 

しかし、最大でもわずか約2cmしか動かないとは、余りにも小さな変位です。また、地震によって2つの大きな建家が、固有の振動数で独立に揺れ動けば、それらの間に挟まれている構造的に弱いトレンチには圧縮・引張、せん断、捻じれなどの大きな力が加わり、クリアランス部のシール材やモルタルなどが最初に破壊されるはずですすなわち、両建家によってトレンチが圧縮されればシール材が潰れて破壊され、或いは、引っ張りやせん断、捻じれによって亀裂や隅角部の破壊などが発生し、そこから海水が建屋内へ流れ込むと考えられます。

HAW施設建屋貫通部からの浸水の可能性について(令和2年4月27日)、JAEA

 

HAW建家は基準地震によって建物が転倒するリスクがある(建家の接地率が不足している)ため、事業者はHAW建家の周辺やTVF建家との間の敷地について、地表から1.8m~6.1mまでの深さの土(厚さ約4mの部分)をコンクリートに置き換えて地盤を改良するとしているが、基本的にこの工事は各建家の振動特性影響しないと考えられます。

(出典:東海再処理施設の安全対策に係る廃止措置計画認可変更申請対応について(令和2年4月7日)、JAEAp51)


・東海再処理施設に係る廃止措置計画変更認可申請書(配管トレンチ(T21)の耐震応答計算書)(令和2年4月7日)、JAEA

・東海再処理施設の廃止措置計画(令和2年7月22日)、JAEA

 

3.3 海水は高レベル放射性廃液のセル内へ容易に流入し、流出する

高レベル放射性廃液を保管するセルには、給気口を経てセル外(アンバー区域)から空気を取り込んでおり、この給気口が水没すれば海水は容易にセル内へ流れ込む。また、この給気口にダンパや逆止弁が設置されていたとしても、これらの水密性や耐圧性は低いため、一旦セル内に海水が流れ込めば、地表下の約3.8mにある地下水とも合流し、容易にセル外へ流れ出る構造になっています。

 

4.高レベル放射性廃液が、津波海水と混じって環境中へ漏れ出す

 最終的に、高レベル放射性廃液が貯槽から漏れ出た場合には、津波海水や地下浸透水と合流し、廃液の自己発熱による密度対流の効果も加わって、セル給気口などから建家内へ流出します。さらに、いったん高レベル放射性廃液がセル内に漏えいすれば、直ぐに拡大を防止するのは非常に難しくなり、いずれ建家から環境中へ流出し、同時に、揮発性の放射性物質が大気中へ放出されます。

その結果、こうした大きな事故が発生すれば、作業者が現場に接近して対処することが非常に難しくなり、廃液の漏えいや放射性物質の大気放出が長期間にわたって続く可能性があります。広い地域が放射能で汚染され、人はこの地域へ立ち入ることが出来なくなり、また、市民は放射線で重大な被ばくを受けます。さらに、東海第二原子力発電所の運転はもちろんであるが、その維持管理さえも重大な影響を受けるおそれがあります。

従って、事業者はこうした大きな事故までを想定し、作業者が現場に接近して移動式の設備で対処するという現在の緊急対処の方法や内容を大幅に見直す必要があります。


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